こんにちは、講師の春原です😊
先日、本屋さんの手芸・ものづくりのコーナーを見ていて、ふと気になったことがありました。
刺繍、編み物、ビーズ、レジン……。
手芸の本って、本当にたくさんありますよね。しかも、ひと昔前と比べると、表紙も写真もとても洗練されたものが増えたように感じます。

手芸ジャンルの棚のイメージ。夢のように✨おしゃれな表紙の本がずらっと並んでます。一度は見に行ってほしい😊
素敵な表紙に惹かれて手に取ってみると、工程写真や図解がたくさん載っていて、必要な材料や道具もしっかり紹介されている。「これなら家でやってみようかな」と思える本が、ずらりと並んでいます。ところが、
「彫金やWAXの本は?」と思って探してみると、意外と少ないんです。
池袋のジュンク堂で試しに探してみたときも、彫金やWAXの本が置かれていたのは、いわゆる「手芸・実用書」の棚というより、「伝統工芸」に近いジャンルでした。
売り場が地下1階から地上9階まである、とても大きな本屋さんなのに、絶対数が少ない。(しかも、あってもなかなか渋い装丁です…)
棚の前で、しばらく考えてしまいました。
もちろん、彫金そのものは昔から受け継がれてきた伝統的な技術のひとつです。
でも、私たちがファッションとしてのジュエリーを作るときに使う彫金は、少し立ち位置が違うのかもと思い至りました。
製法そのものを守り、受け継いでいくことに価値がある伝統工芸と、「こんなものを作りたい」というアイデアを実現するために、さまざまな道具や技法を選んでいくジュエリー制作。
伝統工芸と手芸の間くらいに、ジュエリーの彫金はあるのかもしれません。
本がたくさんあるものと、少ないものの違い
刺繍や編み物、ビーズアクセサリーなどは、材料や道具が比較的手に入りやすいですよね。
全国にある手芸店はもちろん、ネットショップや、ものによっては100円ショップでも材料が手軽に揃います。家の中で始めやすく、本に載っている作品を見ながら、同じ材料を使って再現してみることにも挑戦しやすい。
写真や図解との相性もいいのだと思います。
一方、彫金は少し事情が違うように感じます。
金属を切ったり、削ったり、曲げたり、叩いたり、火を使ってロウ付けしたり、磨いたり…。材料そのものの形や状態を、自分の手で変えながら作っていきます。

使う道具も増えますし、音も出る。作るものによってはやや大型の設備も必要になります。
そう考えると本屋さんに彫金の本が少ないのは、単にニッチだから、というだけではないのかもしれません。
本を一冊読んですぐに、誰でも同じ仕上がりになるものではない。その分、身につけた技術や仕上がりの違いが、その人のものづくりの強みにもなっていきます。
ブランドを作りたい人にとっても、これは大きなことなんじゃないかなと思います。
「どのくらい?」は、本では伝えにくい
もちろん、彫金の知識は本や動画でも勉強できます。
道具の名前や持ち方、金属の性質、ロウ付けでは何が起きているのか。今は検索すれば、かなり詳しいところまで知ることができます。
でも、「どのくらいの力で作業するの?」となると、急に説明が難しくなります。
ヤスリをどのくらい押し当てるのか。バフにどのくらい押し付けるのか。グレーバーのフットペダルを、どこまで踏み込むのか。
文章なら「適切な力で」と書けますが、その「適切」が一番知りたいところなんですよね😅
私自身、高橋先生にバフの当て方を教えてもらったとき、音を覚えて同じ状態を再現するといい、と教えてもらったことがあります。
岡野先生にハワイアン彫りを教えてもらったときにも、グレーバー(ハワイアン彫りなどで、タガネを装着したハンドピースに動力を与える機械)のフットペダルの踏み込み加減を判断する材料のひとつとして「音の大きさ」を教えてもらいました。
意識して作業をしていると、確かに音がかなりの情報になっていることにハッとしました。今まで無意識に感じていたことに、意識が追いついた感覚です。

例えば、作業の「音」からわかること
以前、生徒さんがヤスリを使っているときの作業音が、なんとなく気になったことがありました。
少し滑っているような音がしていたので声をかけてみると、やっぱりうまく削れていません。使っている道具の状態や選び方が、少し惜しかったんです。
きちんとヤスリが金属へ食い込んでいるときには、それなりの抵抗を感じる音がします。反対に、高く上滑りするような音が続いていると、ヤスリがうまく仕事をしていないことがあります。
そのときは道具を選び直してもらうことで、削りやすさも作業スピードも変わりました。

グレーバーでも似たことがあります。
これは私自身の経験ですが、大きな音を出しながらかなり踏み込んでいるのに、それほど太くない線がなかなか彫り進まないことがありました。
そんなとき、単純にもっと踏み込めばいいとは限りません。タガネの角度が合っていないのかもしれないし、打数が合っていないのかもしれない。
セッティングを少しずつ変えていくと、急にスムーズに進むことがあります。
金属は硬い素材なので、加工するとどうしても音が出ます。でも、その音は単なる作業音ではなく、今やっていることが合っているのかを判断する材料にもなっているんですよね。
在校生の皆さんも、先生に言われてから初めて気づいた「音」ってありませんか?😊
私はこういう作業のとき、ヘッドフォンやイヤフォンで完全に音を遮ってしまうのは、ちょっともったいないなと思っています。
そして動画でも作業音は聞けますが、録音環境や再生する音量によって聞こえ方は変わります。目の前で先生が作業する音を聞き、自分の作業音と比べてみる。
それが、プロの「加減」を知る近道になることもあります。
AIに聞きながら、彫金を始める時代
先日、スクールへ見学に来られた方から、ブランドを立ち上げたくて、まずは自分でジュエリーを作ってみようとした、という話を聞きました。
自宅に道具を揃え、動画を観たりAIに質問したりしながら挑戦してみたそうなのですが、なかなかうまくいかず、そもそも道具選びが合っているのかどうかも分からない状態になってしまったそうです。
そこで、一度きちんと教わってみようと思い、彫金体験に来てくださいました。
AIに聞きながら彫金に挑戦した方にお会いしたのは、私はそのときが初めてで、「もう、そういう時代なんだなあ」と、ちょっと驚きました。これからはもっともっと増えていくのかもしれません。
そして最近、もう一つ印象に残ったことがありました。
見学や体験に来られた方から偶然続けて、「進路では別の道を選んだけれど、今になってジュエリー制作に挑戦してみたくなった」という話を聞いたんです。
もちろん、ジュエリー制作を始める理由は、最初から「ビジネスにする!」というものだけではありません。今の生活があり、そのうえで昔は選ばなかったものを、今の自分だからこそ楽しんで挑戦してみたい。
大人になってから学ぶことって、そういう始め方もできるのがいいですよね~😊
学生の頃は、進路や仕事につながるものとして選択肢を考えることが多い。でも、大人になってからなら、純粋に「やってみたかったから」という理由で始めてもいいと思える。
そしてAIでできることが増えた今だからこそ、“自分の手で身につける技術”に価値を感じる人が増えているのかもしれません。
そんなことを考えていると、彫金には今でも人から直接教わる意味があるし、AIだけでは代わりにくい部分がちゃんと残っているんだなと思います。

ちなみにラヴァーグでは、授業で使うテキストも先生たちが試行錯誤しながら自作しています。授業中にどんどん書き込んで、ぜひ使い込んでくださいね♪
さらに最近は、コースで学んだ技術を次の作品に応用するための「ジュエリー制作レシピ」という取り組みも始めました。
単に完成までの手順を追うレシピではなく、ひとつのジュエリーを作りながら、構造やチェックポイントを解説したものです。
技術は、守るためだけではなく「作るため」にある
ジュエリー制作における彫金は、道具も進化しますし、CADで作った原型や鋳造したパーツを、人の手できれいに仕上げることに彫金技術が発揮されることもあります。レーザー溶接など新しい設備を使ったり、効率を考えて作り方を選んだりする場面もあります。
つまり、ジュエリー制作では、技術そのものがゴールというより、「こんなものを作りたい」を実現するための手段でもあるんですよね。
だから、一つの作り方だけを知っているよりも、これは地金から作る、これはWAXの方が向いている、この形ならCADを使った方がいい、と選択肢を持っている方が、作れるものは増えていきます。
そしてブランドを作る場合には、この「できることの幅」が商品そのものの強みにつながることもあります。
専門的な加工技術は、身につけるには時間がかかりますが、その分なぜこの形にできるのか、なぜこの仕上がりになるのか、なぜこの価格になるのかを、素材だけではなく、自分の技術や工程から裏付けられるようになる。
誰でもすぐに同じものを作れるわけではないことは、ときにブランドにとって一つの価値になります。
もちろん、難しい技法を使えば使うほど商品価値が上がる、という単純な話ではありません。
使う技術も含めて、「この商品をどう作ったら一番魅力的になるだろう?」と考えられることが、大事なんだと思います。
以前、ブシュロンの展示を見たときにも、完成したジュエリーだけではなく、クチュールの技術や可視光線の99%以上を吸収するVantablack®のような特殊な素材など、さまざまな分野の技術が取り入れられ、紹介されていました。

ブランドが実現したい世界観のために、さまざまな技術を持ち寄って形にしていく。その創意工夫そのものに、人は惹かれるのかもしれません。
だから生徒さんにも、彫金やWAX、CADの技術を身につけることだけをゴールにするのではなく、作りたいものを、作れるようになってほしいと思っています。
そのための土台として金属に触れ、素材の特性を知り、基礎的な技法から応用まで経験していく。
それが、ラヴァーグで彫金を学んでもらう意味の一つなのだと思います。
作りたいものに、技術が追いついていく
彫金をはじめとしたジュエリー制作は、知識や手順を覚えるだけではなく、実際に手を動かしながら身につけていく部分がたくさんあります。
最初は先生から、もう少し削った方がいい、角度を変えた方がいい、と言われないと分からなかったことが、何度も繰り返しているうちに、自分で「ここはこれでよさそう」「これはちょっと違うかも」と気づけるようになっていきます。
そこが技術を学ぶ面白さであり、「やりたい」と「できる」が少しずつ近づいていく感覚こそ、大人になってからものづくりを学ぶときの大きなモチベーションになるんじゃないかなと思っています。
仕事や家事など、やるべきことがたくさんある大人だからこそ、自分のために時間を使って、手を動かしながら一つのものを形にしていく。その時間も、最後に手元に残るジュエリーと同じくらい、得難いものなのかもしれません。
本屋さんで彫金の本が少ないことから、ずいぶん話が広がっちゃいましたが……😅
在校生の皆さんも、今取り組んでいる課題の中で、以前は先生に聞かないと分からなかったけれど、今は自分で判断できるようになったことが、もしかすると増えているのではないでしょうか。
もしあったら、ぜひ今度教室で聞かせてください😊
そして、これからどんな方法であれジュエリーを作ってみたいと思っている方には、まず一度、実際に金属に触れてみてほしいです。
もしかしたら、思っていたより難しいと感じるかもしれません。
でも、その「難しい」が少しずつ「できた」に変わり、作れるものが増えていく。
その喜びを、ジュエリー制作でぜひ味わってもらえたらと思います。
